あいつが嫌いだったと思った。腹がたって仕方がなかった。誰だって、知らないことを知っている相手が教えてくれないという事態には腹立ちを覚えるだろう。それでも知ろうともがけたのは、しかしそういった嫌悪があるからかもしれなかったし、一方であいつが知っているのなら私も知れるだろうと思ったからかもしれなかった。
 彼はいつも不機嫌そうに世界を眺めていた。天空の色も、風の光も、草原の雫も感じ入ることはなかった。ほとんどの答えを得ていた彼。その世界はとうに輝きを失っていた。
 だから嫌いだった。
 どうして、同じものを見られないのだろう、と。
 生きるものは皆誰しもそれぞれの時を抱く。名前が違うように、指紋が違うように、その心に抱くものが皆違うように、抱かれる時間は違う。時はあらゆる名を持つ。経られる時間であり、その時間が紡ぐ世界である。
 彼が嫌いだったけれど、本当は好きだった。世界を、共有したいくらいに。





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