そこには何もなかった。
平和な草原と風が、自由に歌っているだけだった。いにしえの王国の名残も、滅びた都市の残骸も、季節をめぐる緑に埋もれて見えない。踏みしめた石のかけらの色に、その気配がかすかに感じ取れるくらいだ。
目を閉じると浮かぶ景色は、以前はあんなにも鮮やかだったというのに、淡い光に包まれて、穏やかな影に抱かれて霞んでしまっている。甘酸っぱく、そして苦い懐かしさが胸から溢れて、開いた目に映る空の色を、涙の色に滲ませる。
ここは草原。かつて古王国の都市があった場所であり、後の世にキサラギノミヤと呼ばれる街が生まれ、そして滅んでいった場所。
墓標はなく、風が吹くだけ。その風に導かれて、いつの日か再びこの地には街ができるのだろう。そこは、誰の故郷になるのだろうか、とキサラギは思いを馳せ、蒼穹に向かって笑みを浮かべた。
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