少しレトロな大学校舎の屋根の上、輝く夕日は少し煙って見える。光はわずかな隙間を縫って強くとも、光が強いだけで色がない。薄ぼんやりとした空の色が頭上に広がって、大学と駅の直通バスがエンジン音を響かせて走り去っていった。音が強く駆け抜ける街は、決してこれから訪れる夜も眠らない。取り出した携帯電話は午後四時四十五分から四十六分に切り替わり、冷たい匂いのする風が今日も吹いていた。
 春はまだ遠い。空の色は、まだ曖昧だった。



「アマーリエ。『市長の娘』の、お前に」



 都市に住まうヒト族。草原に住まうリリス族。山脈に住まうモルグ族。いつしか主種族三つが均衡しあっていた汚染海に囲まれた小さな大陸で、アマーリエ・E・コレットは選ばれた。



「せいりゃく、結婚……?」

 恋を知らない、結婚に。


グラィエーシア

「気を失わぬか。なるほど度胸はあるらしい」
「申し訳ありません。我らに機械は禁じられているのです」
「私たちはヒト族の二倍ほどの寿命があるので、二十歳を過ぎると成長が緩やかになるのです」
「助けてやったのに礼もなくて平手? ヒト族っていうのは不義理なんだな」



 都市とは違う。空気が違う。肌に触れるもの、目に映るもの、感じられるもの、すべて。
 手にするものは手に入れるはずだったものとは違うものばかり。私は、そんなもの欲しくはないのに。





「……私とて望みはある。花嫁は、リリスを嫌わぬ者が良い」



「……無理はしなくとも良い。言葉遣いも、私に対する態度も。体面が必要なときは困るが、無理をさせようとは思わぬ」



「……真」
「はい」
「……寂しいか」

 寂しくない。でも寂しい。このままでは埋まらない何かがある。
 恋をしているのか、分からない。この人を見ると涙が出そうになっている理由も知らない。でもこの人は笑えという。
 それでもだめだ。これを認めてしまえば、きっと、もっと、怖いことが起こる……。



「……抱きしめれば、埋まるか」
「え……っ!?」





 ――どれだけの想いを恋と言うの?

GRAYHEATHIA  第1部 Grayth
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