「アマーリエ……」
 春には花が咲くだろう。だが、飾るくらいしか能がないそんなものはどうでもよかった。


グラィエーシア

「正直に言おう。リリスは、もう長くはない。リリスだけではない、モルグもだ。この世界はすでに、我々のものではない」
「どの口がそれを言う」


 最も大事なのは、あの小さな花のような妻なのだから。



「ひ……ひどい!」
「すまぬ」
「全然すまないなんて思ってないくせに!」


「……何故逃げる」
「違います……悲しいわけじゃないんです。でも顔、見られたくないです。わ……私だけ気持ちが大きくなって、潰れてしまいそうで」


 愛おしい日々が始まる一方で、少しずつ明らかになる、リリス。
 王宮に現れる来訪者の名は。


「リオン・シェンと申す。兄上もよくこんな小さなヒト族と結婚なされたものだが、あなたも物好きなことだなあ。さっさと逃げればよいというのに。お手伝いするがいかがか」

 リオンは愉快そうに笑った。
「ヒト族がリリスに敵うとでも?」
「担がれているのなら、そこにあるかぎり役目を果たします」



 リリスとは一体何か。
 そして族長たる天、アマーリエの夫、キヨツグ・シェンとは何者か。



「……ライカ様には抱いてもらったぞ」
「え?」
 戸惑って視線をさまよわせると、問いかけにくいことを彼は頭を撫でてくれながら答えてくれた。
「……私は、前天子とライカ様の、」





「あの方は――一体誰なんです?」





「あら?」
 澄んだ声。黒い瞳。漆黒の、本当の黒。
 さくりさくりと草を踏んで近付いてくる彼女はアマーリエの目を覗き込み、目を丸くした。
「そうか、あなたね、リリスと政略結婚したっていう女の子。ねえ、名前を教えてくれる?」
「アマーリエと……いいます。あの、あなたは……?」
「私? 名前も久しぶりに訊かれたなあ」
 満面に笑みを浮かべた彼女は、その反面静寂を呼ぶように静かに、名乗った。





「エリコ」

GRAYHEATHIA  第2部 Lilith
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