―――― 時 の 砂 糖 漬 け


「キヨツグ様」
「……うん?」
 彼が振り向いた瞬間、両腕を伸ばして飛び込んだ。反射的にキヨツグは両手を広げて胸を開けてくれるので、自然とすっぽり身体が収まる。
 アマーリエはそのままぎゅうっと力を込めるけれど、包み込めるどころか苦しむ気配もない。
「……エリカ?」
 あまりに力を込めすぎたので息を止めていた。ぷはっと息をつきながら離れると、キヨツグはあまりにも疑問だったのか、こちらの様子を不思議そうに見守っている。
「……どうした?」
「はい。キヨツグ様って大きいですよね。それで、どれだけ私が小さいかっていうのを確かめようと思ったんですけれど、やっぱり私じゃキヨツグ様を包み込むことは出来ないんだなあって」
 確かめたのだ。キヨツグは首を傾げて、「……包み込まれるのは嫌か」と尋ねた。
「嫌ってわけじゃないんですけど……やっぱり、包容力のある女性って良いのかなあって」
 キヨツグは目を宙に逸らして何事か難しそうに考えていた。そうして、納得がいったのか頷くと、手招きをして、側に寄ったアマーリエを座らせる。向かい合って座ったキヨツグは、つと、アマーリエの髪を梳いた。
 どき、どき、と胸が打ち始める。
 そのまま顔を寄せて、胸に顔を埋めてくる。冬みたいな気配のする髪のにおいが近くなり、そのまますりすりと顔がすりつけられた。
 どきどきという心音は伝わっているはずだ。段々アマーリエにも分かってきた。自分が、すごく恥ずかしいことを言ってこうさせたのだということに。
(うわあ! うわあ!)
 黙って胸の中で身じろぎするキヨツグは、猫や犬のような温かい動物みたいだ。
「……な、なんか」
 思わず口を開くと、上目遣いで見られる。ものすごい勢いで心臓が動いた。
「……お、おっきい猫か犬みたいですね……?」
 もつれる舌でなんとか笑うが、作り笑いみたいになってしまった。すると、また何事か考えているキヨツグがいる。この状況が状況なので、何かちょっといやな予感がした時、キヨツグの頭がむくりと起き上がった。
「…………………………?」
 口元にぺろんとした感触。思考が追い付かなくて何をされたか分からない。
「……ええと?」
 見上げるキヨツグはちょっと不満そうにして、もう一度頭を上げて。
 ちゅ。
 今度は音を立てて軽く唇を合わせていった。
「っ! っ!!」
 思考のゲージがあるとするのなら、それが一気に急上昇して真っ赤に点滅している。たった今、ゲージが壊れて割れた音がした。ぼんっ、と。
 キヨツグが膝の上に頭を置いて寝そべっている。手を振り下ろせば直撃していいダメージが与えられるだろうけれど、震える手は行き場がない。
「……猫か、犬なのだろう?」
 唇の端を持ち上げて尋ねる声が、意地悪だった。






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