38. そして、いつまでも
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 繰り返し見た夢は、異国の血を引く男の夢だった。彼は偉大な男の息子だった。その男の名は、カリス・ルーク。
 年表に記すように彼の出来事を夢に見た。偉大な父を亡くしながら自らの仲間を手に入れ、ある時はその地の不正を暴き、ある時は統治者と腹を割って話し、ある時は仕方なしに武力を持って、大陸を統一する。玉座に座ってなおまとまりきらないナリアエルカを治めようと、彼はただひたすら、自身の歴史の終わりまで走り続けようとした。
 繰り返し見た夢の中で、不意に、彼は恋をするのだろうか、と彼女は考えた。
 次の瞬間像を結んだのは、小柄な少女だった。
 最初はシール。次にシール・リラ。セール・リラまたはセル・リラ。キールや、オルハ・サイという名前だった時もあった。
 彼女はたゆたう。現実でありながら仮想である狭間で、いくつもの物語を紡いできた。名前が違えば物語も少し違う。紡ぎ始めたものの終わりまで紡げなかった多くの夢の名残をつなぎ合わせて、リワム・リラの物語が生まれた。それもひとつではなくいくつか。その中からひとつを選んだ。そうして、この自分自身を夢見ることでこれはひとつの完結となる。それも、リワム・リラの物語を夢見る中で考えだした完結の方法だった。
 彼女自身も多くの名を持っていた。『ナリアエルカ』は形のひとつに過ぎない。
 しかし自分自身の物語を紡ぐのは当分先にことになるだろう。今はただ、この物語を終わらせようと思っている。少しずつ長さを増し、少しずつ甘さを増し、少しずつ何かを見出そうとした、この誰かに愛されたい物語。
 願わくば、この夢の名を読んで、物語を閉じることを。
 ありがとう。
『私』が紡ぎ、『あなた』が垣間みた夢――物語の名は、「月の夢果てるまで」

 くす、と笑った。離れた瞬間、リワム・リラは耐えきれず、抱えられた腕から逃れるように、身をよじって笑い声を漏らしていた。
「どうしましょう。そんなにたくさんあったら、幸せすぎます」
「なんの。まだあるぞ」
 そうして再び降ってくる温もりを同じ唇で受け止める。これだけで十分だというのに、カリス・ルークは息継ぎの合間に様々な答えを告げてくる。抱えきれない。
「私にはこれだけで十分です」
 そう言って自分から唇を寄せた。カリス・ルークは、目を丸くして、まるで競うように再び優しく触れてくる。そうして二人して甘い笑い声を立てて、いつしか空を見上げていた。
 真昼の空、欠けた白い月が夢のように優しい光を降らし、その光は、果てを知らなかった。

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