――少女が歌っている。なのに世界は光り輝かない。



「受け止める人によって形を変えるのが歌だって知ってる？　歌は自由よ。どこまでも溶けていける――孤独の中にさえも」



　見渡せるこの【都市】は五つの動力源によって支えられている。動力源を守る五本のタワーはシンボルで守護塔だ。何十もの障壁を街の周囲に張り巡らし、電力等の動力を生み、人的物的問わず能力を制御している。最も人間が依拠しているのは制御に関してで、人は苦労せずに能力を使うための装置として制御装置を生み出し、【都市】独立後最大の発明だと言われていた。

「だいじょうぶ。何が起こっても、きっと叶途が助けてくれるんでしょう？」

「聞きたいというのなら、話す。信じられないのなら立ち去れと言ってくれ。お前の言うことに俺は従う」

　聞こえてきたのは歌だった。千歌は膝をつき、祈るように両手を組んで、空へ顔を上げて歌っている。レクイエム。そんな言葉が浮かぶ、悲しみに満ちた歌だった。聖歌のように厳粛で、悲しい響きを持って。

「そうして出来上がったものは闇から生まれた別の生き物だ。血塗られた、闇の怪物。私たちは同じ闇から生まれ、同じものを見てきた。私たちは同じ生き物。叶途は人殺しを止められず、これからも命を喰らって生きていく」

　逸らしてはならない。声をなくしてはならない。

「理解できないと、一緒にいることはできないの？」



　叶途の力、そして光輝の力が真正面からぶつかりあう。硬質に研ぎすまされた力が生み出す大高音はやがて質量の高い波動に変化し、その波動は刃、光となって半球の中から解き放たれていく。障壁が溶け果てた動力源を襲ったそれは爆発を生み出し、半球の硝子が一瞬白く濁る。
　音高く硝子が粉砕される音。放たれる閃光と力の刃。

　小爆発にも似ていて剣のように鮮烈な力が閃光となって迸る。内側から巻き起こったそれは円盤状に広がり、都市の空を駆け抜けた。
　一瞬の静寂と、刹那に続く轟音。
【都市】南南西、第四タワーの中心部は、盾である外周だけ残して展望台もろとも崩れ落ちた。



　少女が歌っている。なのに、そして、世界は――