SS 夜を待っている
食事が終わると、カリス・ルークは本宮へ戻る。晩餐は、彼の仕事が滞りなければほぼ毎夜ともにする。おしゃべりがあまり得意な方ではないリワム・リラは、彼の話に相槌を打つばかりだったけれど、以前感じたように、話題を提供できないことに卑屈になったり悲しく思ったりはしなくなった。多分、自分のことを忘れるくらい彼を見ているせいだ。
食事も終わり、彼には珈琲、自分には牛乳と香辛料のお茶を入れて、話の続きをする。おなかも満たされて、身体がぽかぽかしてきて、幸せな気持ちが倍増する。笑い皺を見つけて嬉しくなったりもする。そういうささやかな幸せが、今この部屋に満ちている。
なのに、何故だろう、不意にカリス・ルークの目が少し寂しげになる。相槌を打って微笑む度に、優しく笑っているけれど寂しそうにしている。理由を尋ねるべきだろうか。それとも、触れられたくないだろうか。
考えている内に、王は暇を告げた。支度を手伝っていると、もの言いたげな目が合う。
もうだめだ。我慢できない。
「……私、何かご不興を買いましたか?」
「うん?」
きょとんとされたのも、自分のことでいっぱいいっぱいなので気付かない。
「私に粗相があったなら仰ってください。直します。頑張って直しますから。だから、そんな悲しい目で見ないでください……」
「……悲しい目をしていた、か?」
唇を引き結んで頷く。カリス・ルークは天を仰いだ。
「粗相はしていない。していないが……だからウィリアムに堪え性がないと言われるんだな、私は……」
「はい?」
どこか懊悩するようなカリス・ルークに、一心に見つめて答えを待つと、剣を持つ人の乾いた指先が頬に触れた。
「まあ、いい。式まで待つつもりだったのだから」
リワム・リラは疑問符を飛ばしながら、カリス・ルークを送り出した。一体どういう意味なのだろうと、寝具にくるまっても考えつかず、部屋のあちこちにはリワム・リラの疑問ばかりが落ちている。
1010258周年記念小話初出 120627改訂