あるところに一人の人がいました。その人はどんな緑でも芽吹かせる事の出来る魔法の指を持っていました。
そうしてある日、それを聞きつけた王様に、緑を芽吹かせてみせよと言われました。けれどその人はこの力は見せ物ではない、無闇に芽吹かせるものではないと言って断りました。それに怒り狂った王様は、兵士に命じてその人の十本の指を全て切り落とさせてしまいました。切り落とされた指は、兵士によって城の裏に捨てられました。
指を失って緑を芽吹かせる力を失ったと思われたその人でしたが、緑を芽吹かせたいと頼る人はたくさんやって来ました。国の緑は戦争でどんどん少なくなっていたのです。その人は頼ってくる人々に種を植えてもらい、緑を芽吹かせ育てる方法を教えました。その人は自分の能力を魔法ではないと言いました。誰でも使う事の出来る力だと人々に言って、笑うのでした。
王様は戦争を大きくしようとしている事に、人々は反対していました。魔法の指を持つあの人もお城に向かいました。お城には戦争に反対する人々がたくさん集まっていました。お城に迎え入れられた人々は戦争を止めるよう王様に口々に訴えましたが、王様は兵士に命じて皆を取り囲めさせると、首を刎ねるよう命じました。次々と人が殺されていく中、魔法の指を持つ人の番になって、その人は言いました。「あなたが緑を焼き払うのなら、私たちはそこに緑を植えます。私がいなくても人々がいる。その事を忘れなさるな」そして首が切り落とされました。
その時です。お城が大きく軋んだかと思うと、あっという間に崩れてしまいました。後に残ったのは、崩れた城を覆う十本の大樹です。お城と王様は大きな樹に押し潰されてしまいました。
木々の根元はあの人の指を捨てた場所だった、という噂が、人々の間で囁かれました。緑を芽吹かせる事の出来る力を持った人は神様に愛されていたから、王様は罰を受けたのだと後世の人々は言いました。
崩れたお城は森の中にあるそうです。あの人とあの人の心を継いだ人たちが植えた木々が、今もお城を覆っているのです。
種 を 蒔 く 人
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