「これからの行いに失敗すれば、貴方を潰してしまうのだな」
シンフォードが元に戻った調子で呟き、今更ですかとエタニカは晴れやかに笑う。
「そうなれば諸共です。例え堕ちようとも、あなたの手は決して離しません」
そうして手を絡める。エタニカの手は、離れていた間も乾いたまま、けれど手のひらが大きくなり、細く長い、白っぽい指になっていた。少し冷たい黄色味を帯びた薄紅の爪先に、シンフォードが口づける。エタニカは頬を染めた。
「私の手は、そう、容易く壊れるようなものではないので……その、丁寧に扱う必要は」
「私には、これ以上なく儚く思える」
息を詰めるエタニカを腕の中に治めながら、シンフォードは息を零す。バルト将軍が微笑んで、クリスタ王太后が杖を鳴らして来る。ルルが姫様、と呼びながら両手を差し出す。
だが誰よりも早く、もう、限界だ、と彼はエタニカに手を伸ばす。
この後の罪と罰も、歓びも、すべてともに、とシンフォードは言った。
「抱きしめても、いいだろうか。ずっと触れたくて、たまらなかったんだ」
*
後に。
グレドマリアにおいて、シンフォードとエタニカの名は様々な形で語られるも、しかしフォルディア王国において、エタニカは『裏切り者』『娼婦』と悪名高く、憎悪をもって語られ続ける。とある執筆家がまとめた書物は、悪書と断じられ、発禁、焚書扱いを受ける。
運命を狂わす女が『エタニカ』とまで呼ばれるようになのは、そう遠くない未来の話である。
一方、グレドマリア王国第五代国王シンフォードによる、エタニカ・ルネを王妃に迎える際の宣言は、グレドマリアの人々の喝采を浴び、多くの詩歌や物語にうたわれることになる。
人々は語り継ぐ。強く、賢く、病的にも思えるほど潔癖であり強靭であったの王はこう言ったのだ。
「エタニカ・ルネは、我が運命の姫である」と。
エタニカ・ルネは、光あふるる未来を授ける運命の名であり。
また、国と人を狂わせる運命の名である――。
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