世界の終わりだ。
果てもなく、空もない。それは辺り一面が黒く塗りつぶされた世界に、銀粒のような星が覗いているだけの世界だから、世界の終わり。でも、これは自分が見ている世界だ。もしかしたら、別のひとには違うように、これが映っているのかもしれない。
そこに、ひとりではなく、おじいちゃんとただよっている。おじいちゃんはぷかりぷかりといびきをかいて、ここがいつもの夜であるかのように眠っている。いびきがおおきい。毎夕のお酒をたしなんだのだろうか。気持ちいいのかな。そうであるといい。(そうでないといけない――)
いつの間にか、泣いている自分がいる。世界の終わりはいつも悲しい。
やがて世界の終わりに涙の粒も見えなくなり、静かに目を閉じる。いつか宇宙の片隅で起こるというビッグバンで、世界が白く塗りつぶされ、『はじまり』の状態になっても、きっと、おじいちゃんはいつものように眠っているはずだ。(その眠りは、きっと、だれにも醒ます勇気はない。)
おじいちゃん、どんな夢を見ているの。ぷかりといびきをひびかせて。(その夢が幸福であることを祈り、終わってしまうことをおそれている。)だから、涙が出るのだ。当たり前の日常のおわりとはじまりは、いつもだれかを身軽にしていく。ビッグバンのあとの世界は、夢から覚めたみんなの日常を取り戻していくから。そこに留まっていることはできない。
(でも知っているのだ。その日常に、存在しなくなったひとがいるのだって。)
(前を)(いつまでもここには)(前を、向かなくては)
それでもまだここは、世界の終わり。
(だからまだ、さよならは。)