Prologue
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 その言葉を聞いたとき、彼女は全身から力が抜けるようだった。もし花に人と同じように感じられる器官があったとしたら、摘み取られたとき、こんな脱力感と絶望を味わうのだろう。甘く香る大地に身を寄せていたのに、今やそこは冷たい永久凍土と化し、彼女の目を覚まさせる。花開くべき春の土地だった場所は彼女の楽園ではなくなり、身を隠すもののない荒野に彼女の心を放ち、がさがさに荒れ果てさせようとした。
「しかしそれでもあなたは心温かな僕の友人です、レディ――」
「いいえ、いいえ、私がいけなかったのです」それ以上聞きたくなくて必死に言葉を紡いだが、彼女のそれは、童話の姫君が紡いだ糸よりも細く頼りなく、喘ぎを交えて今にも切れてしまいそうだった。
 ああ、そんな目で私を見ないで! 悲鳴をあげるのはたやすいが、理性が邪魔をする。困らせたくない。拒絶されても、私はまだこの人を愛しているのだ。
「お願いです、もう何もおっしゃらないで。私、反省しています。あなたを困らせるつもりはなかった。ごめんなさい」
「あなたがご自分を悪く思う必要はありません。あなたを受け入れられない、僕の狭量をお許しください」
「……どなたか思う方がいらっしゃるのですか?」
 口をついて出た問いかけは本物の疑問で、最も聞きたくない呪いの言葉だった。呪われてしまえ、と己の唇を噛む。誰でもいい、イビル・スピリット、悪霊よ呪いたまえ、彼の言葉を止められるなら!
 彼はかぶりを振った。慈しむようなその笑みは、彼女に対してそれ以上の思いを持ったものにはけしてならないのに、彼女は自分が大切にされているように錯覚する。保った距離が震える。一歩踏み出せば触れられるのに、彼はきっとそれを許さない。
「僕は子どもなんです。絵本の中の登場人物を好きになった経験は?」
 一体何の話だろう。しかし好奇心と彼の声に耳を傾ける自分がいることは隠せない。
「ええ……あったと思います」
「気を悪くしないでいただきたいんですが、僕は昔から現実的な子どもでした。何せ、童話の中の登場人物と『同じ』だったものですから、実際『それ』になってみると、恋うに値する身分でもないと思っていたんです。でも、どうやら違ったらしい。僕はきちんとそういうロマンスを夢見る人間だった」
「想像上の人物に恋をなさったのですか?」
「遠い存在に恋い焦がれるということは、そういうことでしょう。でも、彼女はきっと、僕とのロマンスなんかお呼びじゃないと言うんだ。僕は今からそれを、とても楽しみにしているんです」
「楽しみ、に?」理解できず、彼の性格に対する疑いも浮かび、尋ねる声は不安に揺れる。彼は、多くの人の想像をかき立てるような魅力的な顔で、愛を囁くに近い声で言うのだった。その声は、彼女に向かっているのに、彼女のものではなく……。

「ええ。想像上の美しいロマンスよりも、現実の険しく困難な恋の方が、ずっと素晴らしいものですから」

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