序章 時の断片

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 机に叩きつけられるいくつもの拳、呪詛交じりの怒声を浴びてなお、青年の眼差しは揺らがなかった。
 空と植物のはざまの色をすくい取ったようなみどりの瞳は、上段の審問官へと向けられている。自分のいる最も低い場所をぐるりと取り囲む裁判官机、そこに座る人々の嫌悪の感情の数に怯まない彼は、つい先ほどとある真実を告げた口を、じっと閉ざしていた。彼は待っていた。この場所で最も権威を持つ審問官――宗教都市シュパイアトルムの長が、自身の言葉に応えるときを。
 応えるはずだと彼は確信していた。『彼』もまた、『彼女』と同じ願いを持っている。
 かくして、紗幕の向こうにいる人物が、しわがれた声で問うた。
「それで、そなたは何を求めるのかね?」
 そして、彼は答える。
「おれは――」

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