設定・裏話集
初稿執筆当時、改訂版、同人誌版、また関連作品についてのまとめです。
本編や番外編、関連作品(「竜約の光環」)のネタバレとなりますので、お読みの際はご注意ください。
物語について
「グラィエーシア」という作品は、初期案では「恋人を異種族に殺されたヒロインが敵と結婚して復讐を企むも殺すつもりだった彼を愛してしまう」というお話でした。
これはプロット作業中に少しずつ改変されていき、最終的に「長寿種族と政略結婚する普通の女子大生」の物語になりました。
アマーリエを医学部在籍にしたのは、本編にあるように感染症にまつわるエピソードのために必要だったためです。
作業当時は鳥インフルエンザだったがSARSだったか、パンデミックという言葉が連日報道されていたのもありましたし、また困難な状況に対する打開策としてマスコミを利用するのも有効であると知ったことも、物語構成に大いに影響を受けました。
なお、同人誌版ではアマーリエは文学部在籍で読書家です。こちらも作中のエピソードに関わる設定として付与しました。
改訂版のアマーリエは、ほどほどに読書をする程度です。
作中ではあまり出ていませんが、実はアマーリエの学生時代の写真は結構出回っています。
中高一貫の上流階級の人間が通う制服ありの学校に通っており、どこかの雑誌に「美人女子高生」みたいな特集で掲載され、ネットワークが活発になった現在も制服姿の写真がアップされています。
そのため大学では、アマーリエと話したことはないけれど顔や素性を知っているという学生が多いです。教授や講師陣の中には優等生の彼女を気にかけてくれる人もいました。
なお政略結婚を告げられたアマーリエが逃亡のために頼ろうとした同級生がいますが、彼もまたアマーリエに好意を抱いていた人物です。告白しなかったのはアマーリエが市長の娘だから。悪事に手を染めている自分には高嶺の花と考えていたようです。
キヨツグは、それまでの作品のヒーローとは違うものを書こうと考え、アマーリエや親しい相手に対して「……」と一呼吸置く、というかなり直接的であからさまなキャラ立てをしました。
あまり表情がないという設定もあるんですが、アマーリエの視点だとわりとちゃんと見分けることができてしまっていてあまり活かせておらず、改訂版ではかなり意識的に「表情が出ない」と書くようにしていました。
命山の女神と始祖の第三子に当たるキヨツグですが、この親子のエピソードをどう書くかかなり悩みました。
リリスは会う気はないようだったので、これはキヨツグが自分から会いに行かなければどうにもならないな、と思っていたんですが、第三部になって突然会いに行こうとして驚きました。
このとき、この作品の改訂版として書こうとしたことが見えた気がします。
旧版における「GRAYHEATHIA」は「ハッピーエンドのその後」をテーマにしたものでした。恋する男女が結婚する、その続きを書くための物語です。そのためストーリーもアマーリエとキヨツグを中心としたシリアスな展開が続きました。
改訂版において大きく手を入れたのは、キヨツグ周りの設定とエピソードの補完、そしてマリア・マリサ・コレットを中心にしたコレット家の人々の描写です。
これらを最後まで書いたとき、恋する二人の物語が「家族の物語」というテーマになったと感じました。
キヨツグたち別離を選びながら絆を信じた家族。
アマーリエの実家であるコレット家の家族とこの家の問題がどこにあったのかということ。
その上でアマーリエとキヨツグが自分たちの家族を作る。
これは改訂版でなければ、そして私が年齢を重ねなければ、書けなかったテーマであったと思っています。
リリス族の服装について
旧暦東洋という描写にしてありますが、アジア圏の民族衣装が残っていることになっています。
特に多いのは和装と漢服、遊牧の氏族はデールです。色々と混ざっているのでファンタジーらしくアレンジが加えられています(リリス族は男女ともに裾長の羽織ものの上着を着る、など)。
アマーリエは普段は袴か着物です。公式行事では和装か漢服です。第3部の儀式のシーンでは豪華な襦裙に髪飾りですね。
キヨツグの普段着は暗色の袴です。明るい色が似合わないわけではないけれどそぐわない……と族長付きの衣装係は悩ましいらしいです。その分、ちょっとした行事ではなるべく華やかになるよう鮮やかな差し色で工夫しているらしいです。
この人たちの衣服は反物から仕立てます。何年かに一度、品質が高いと認めた商人を複数呼び、衣装を仕立てるにふさわしい商品の売り込む機会が与えられています。この機会は反物に限らず装飾品から食料品まで多岐に渡りますが、おおむね官人が行います。
ごく稀にキヨツグとアマーリエが参加することもありますが、多くの場合キヨツグがアマーリエに贈り物をするために割り込んだせいです。官職の苦労がしのばれます。
リリス族の物品の多くは量産できないもので、アマーリエなどは高価なものだという感想を抱いていますが、王宮関係の物品はともかく、リリス内ではさほど高級なわけではありません。
ただ本編の後からヒト族との間で貿易が活発になるので、値段がどかーんと釣り上がります。リリスはしばらくの間凄まじい変化を迎えることになりそうです。
食事について
個人的な話になるのですが、私のファンタジー小説は「その世界の出来事を私たちの世界の言葉に翻訳する」という体で書いています。なのでこの世界観では存在が疑われる諸々は、現実世界のそれに相当するかはかなり怪しいです。
例としては「チョコレート」と書いてあるこれは本当に私たちが食べるあの「チョコレート」なのか? ということですね。
都市では地下に巨大養殖場があり、魚介類はこちらで生産されています。
都市外部では農業と畜産等が行われています。
一般的には味や食感を似せた加工肉が食べられています。
ここでの高級食材は魚介類、特に魚です。
リリス王宮では希少ですが川魚が出ることがあります。
肉や野菜も天然ものです。ヒト族が食べるとめちゃくちゃ美味しく感じるか、違和感を覚えて受け付けないかに分かれます。
草原を移動する氏族は味の濃いものや保存食が一般的ですが、街などに定住している人々は出汁の効いた和食をよく食べます。時々中華料理みたいなものも出ます。
甘味の原料となるものがなかなか手に入らないので、砂糖を使ったものやお菓子が高価なものに当たります。
アマーリエの好物は魚料理、キヨツグは野菜の天ぷらという設定です。
アマーリエの料理スキルはそこそこ。最低限作ることができますが、一人で食べるのが多く作っても寂しいだけなので、コンビニなりレストランなりで買うことが多いです。食に熱心ではないので、買うとしてもサラダとちょっとした惣菜、家でスープを作るくらいですね。
リリスだと火を起こすところからなので手伝いが必要です。
キヨツグは大抵のことはできます。天才料理人というレベルではありませんがなんでも普通に美味しくなります。肉の解体もお手の物です。
幼少期は他所に預けられて育ったこともあって、贅沢料理に数えられる新鮮な野菜の天ぷらが好物になりました。
食べ物とは少し違いますが、実は喫煙者です。滅多に吸わないので止めたといっていいくらい。色々と極まるとこっそり吸っています。
同じようにお酒も嗜みますが、族長になってからは付き合い程度に留めています。というかワーカーホリックなので夜明けまで飲むようなことを続けていると流石に倒れるという自覚があるようです。
愛馬たちについて
キヨツグやアマーリエたちの馬は、純粋種の馬に別種のものを掛け合わせた亜種の馬です。
リリスでは亜種でない馬を見つける方が難しいですが、見た目が大きく逸脱しないもの、かつ能力が高いものを飼育する牧場があります。
掛け合わされているのは鳥獣などですが、特に希少な種の存在が確認されており、キヨツグの愛馬である瞬水がそれです。希少と言われていても研究中でその実態は未だ明らかではないのですが、言い伝えによると「竜」であるとか。
亜種の実態ですが、「竜約の光環」のネタバレから引いてくると、亜種に当たる生物にはすべて「知能を持たない肉食の竜」の血が入っています。それら竜と他の生物の混ざり物が多数生まれ落ちたのが竜約本編後の世界です。
そこから続いたグラィの世界なのですが、なんとかいまの生態系を保てるようになったのは守護者たちの並々ならぬ努力があったおかげです。
というわけでキヨツグの瞬水は、亜種でありながら竜の因子を強く表に出しており、なかなかの巨体で、凄まじく賢いです。怯えるということを知りません。
アマーリエの落花もまた、普通の馬と比べて竜の因子を強めに持っていますが、どちらかというと鳥の因子が大きく出ており、身軽で美しい個体ですがあまり体力がありません。ただこちらもとても賢く、雰囲気や気配を察知する特殊能力、そして慈愛の心の持ち主です。
亜種馬は純粋種と比べて元々かなり感応能力が高いので、なかなか騎乗させてくれませんが、これと認めた相手には信頼のおける友や家族になってくれます。瞬水はその点キヨツグを一目置いていますし、落花はアマーリエのことを守ってあげたい、一緒に頑張りたいと姉のように思ってくれています。
瞬水と落花は、アマーリエがやってきたことをきっかけに出会い、実はつがいになろうとしているのですが、落花がなかなか心を許してくれないので瞬水はアプローチに精を出しています。落花もまんざらではない様子で、つがいの相手は瞬水しかいないと思っています。
生活や住居について
王宮そのものは中国風の宮殿をイメージしていただければと思います。内装もそんな感じですが、コウエイ、セツエイ、キヨツグと三代続いた族長が華美なものを好まない人たちだったため、高価かつ派手な家具や備品は蔵に仕舞われており、外見に比べて内部はだいぶと落ち着いた色合いです。
草原を移動する氏族は、イメージ的にはモンゴルなどの大平原の暮らしです。
街と草原とは生活習慣がかなり違うため、セツエイはキヨツグを引き取った当初から、成長するまでは王宮で養育し、ある程度の年齢になったら騎馬の氏族のもとに預けることを計画していました。族長になるのは決まっていたようなものだったので、ならばリリスの民の多様な暮らしぶりを理解させる必要があると考えていたためです。
リリスにおける最も大きな街は、王宮のある街シャドです。漢字表記では「赦土」と書きます。「赦しの土地」の意味です。
他にも大きな街はいくつかあり、特に主要な氏族が治める土地には街があります。リィ家の治める北方の街の他に、東、南とありますが、西はヒト族との「境界」に近いため、かなり小さな規模です。本編後に貿易や外交を担う街として発展していきます。
特に特徴的なのが命山です。
この場所はかなり宗教色が濃く、住人のほとんどが世捨て人です。俗世の縁を切る誓いを立てなければここに住むことはできません。この場所の住人はここで商売はできますが、他所に行くことはほぼ不可能です。
食料や薬などはここでは非常にありがたがられ、金銭の代わりとなる事例も多く、巡礼者は大抵何らかの物品を持ち込み、これらと交換で宿泊など便宜を図ってもらっています。それらを持っていない巡礼者は畑仕事などの労働を対価として滞在します。
酒屋や飲み屋もなく、歓楽街もないため、やってくる人間が稀なので、こうした生活が成り立っている土地です。
命山の頂上には女神が住む宮殿があります。門番が守る門を通り、山を登っていかなければなりません。この山道は霧に覆われており、道行く者につかの間の幻を見せ、その間に宮殿付近に転送する、という術になっています。
ゆえに、頂上の宮殿は外の世界とはまったく異なる場所にある、狭間の世界と表現することができます。族長から退いてここに登ると降りてこないというのは「降りられない」が正しいです。過ごした時間や体質によっては降りたとしても元の形が保てるとは限らないので。
命山と地上を問題なく行き来できるのはリリスとオウギ。この二つの場所を繋ぎ止めているのが彼女たちだからです。ただ、楔の役目を二人で担っているため、現状一人は命山に残らなければいけない決まりがあります。
楔が二つなので安定性を保とうとしてのことなのですが、楔の役目ができる人物が増えればまた話が変わってきます。命山の楔は大きいものですが、それを地上の楔の二本で補えば、とか。
そういえば、儀式を経た有資格者が久しぶりに誕生しましたね?
リリスが「同胞」と呼んだ竜たちは、命山に似て非なる異なる世界の住人です。竜約を成した者はグラィエーシアの世界に縁を持つため、渡ってくることができます。
そのためには扉を開く必要があり、その力はリリスが持ち、血族に限り、耳飾りを通じて貸与することが可能です。
この能力の存在については「竜約の光環」でわずかばかり触れています。
竜たちが異なる世界にいる事情ですが、いまのところ「避難」とだけ記しておきます。
「竜約の光環」に関連する裏設定
以下は「竜約の光環」の裏設定にも当たるので、ネタバレをお望みでない方はそちらを読んでからご確認ください。
「竜約の光環」の世界にあったのは、世界を舞台に竜と人をコマにした陣取りゲームです。
まず、当時の竜はこの世界に縁を持たなければ消滅する運命にありました。そのためこの世界の人々を守護すると宣言することで自らの存在を繋ぎ止めていました。
守護の契約を交わす相手は、大抵がその土地の有力者やその家族でした。すなわち王、または王の子ら。時代を経ると「巫女」と呼ばれる者たちです。
この契約によって人は竜とともによく治め、竜は人を守る守護者となりました。
これが最初の「竜約」の形です。
何らかの理由で竜約が解消されると、かれらによって守られていた土地は次の有資格者のものになります。あるいは上位に位置する者に委ねられますが、当時の約者たちにさほど上下関係はありませんでした。
しかしこの決まりに目をつけた者たちが、さらなる豊かさを求めて戦を起こすようになりました。
すなわち、竜約を成した者たちがプレイヤーとなり、別のプレイヤーを倒すことによって自陣を広げる、陣取りゲーム。
これが「竜約の光環」本編より古い時代における戦争のきっかけです。
「竜約の光環」では古い時代の人類は三つの道に分たれたと書きましたが、裏設定を踏まえると、その三者は以下のような表現になります。
そのままゲームを続ける者。
戦争を避けて逃亡してゲームを放棄する者。
竜の血を取り込むことで竜が不在でもプレイヤーの資格を得たものとしてゲームに参加する者。
その結果が、プレイヤーがごくごく少数になり、混迷を極めた盤上となっていた「竜約の光環」本編の世界でした。
本編後、竜約を成した二人によってゲームは落ち着きを取り戻し、プレイヤーそれぞれの選択があって、この世界の陣取りゲームは最終的に彼女たちに委ねられることになりました。
「竜約の光環」本編後、そして「グラィエーシア」本編で、陣取りゲームはどうなっているのか。
プレイヤーたる有資格者がほぼ消滅した結果、リリスとオウギが小大陸すべてを自陣とする守護者となりました。
有資格者がいなくなるのは当たり前。何故なら文明が作り変えられていくこの世界、原則的に民主主義を敷くヒト族の都市で、自陣を代表する王や王の子らは存在しないも同然だから。
しかし「市長=統治者」の娘のアマーリエはかろうじて「王の子」に数えられる有資格者といえる立場であり、竜約を成した二人の子孫であるキヨツグは「竜」に当たる有資格者だった。
ですからこの二人が結ばれたのは少なからず世界の強制力が働いた結果だと思います。
ではこの陣取りゲームの存在をリリスとオウギは把握しているのか。
まったく正確に、とはいきませんが、守護者としての領域が存在することは把握しています。
別の守護者と交流を持っていた過去があり、かれらが支配下における領域が限られていたことと、かれらが亡くなったことによってその陣地を譲られた経験があること。そしてまったく没交渉ながら他の約者たちの存在を把握しているから。
実は「グラィエーシア」でほとんど描写しなかった「汚染海」に、第二の竜約の者たちが存在している、という裏設定があるのでした。
広大な海を自陣とするくらいなのでリリスとオウギではまったく歯が立たず、双方ともに世界を手にしたいというわけではないので最終的に交流を断った、というエピソードが、「竜約の光環」の世界から「グラィエーシア」の世界に至る始まりの話となるのですが、きっと書くことはないでしょう。
けれど改訂版「グラィエーシア」で大幅に手を加えた命山周りのエピソードは、やはり「竜約の光環」が完結しなければ書けなかったものだと思いますから、可能性はゼロではないかもしれません。(2021年2月)
大変長々と書きましたが、以上が「グラィエーシア」ならびに「竜約の光環」の裏話となります。
途中まで書いておいてかなり放置してしまったので、明かしておくべき裏設定をすべて忘れており、もしかしたらどこかで加筆修正をするかもしれませんが、とりあえずここで筆を置きます。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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