30. 改変
新たに響き渡った爆音に、女たちは身体をびくつかせうつむいた。気を失う女官がいて、真っ青になっている者がほとんどだった。反乱者たちは中央に集めた女たちの退路を塞ぎ、少しでも身じろぎしようものならという殺気を放ってくる。いつ壊れてもおかしくない精神を、誰もが抱えていた中。
「どうして……」
「どうして誰も助けに来ないの!?」
ナラ・ルーとアン・ヤーが切れたように泣き叫んだ。
「黙れ!」
怒鳴られて彼女は引きつった泣き声を上げる。絶望的な空気がいっそう濃くなった。口に出さないが、誰もが思っていた。
王は、もう。
「馬鹿なこと言わないで!!」
皆、驚いて声の主、リワム・リラを見た。
必死なほどに唇を引き結び、金色の目に涙を溜める小さな娘を見て、そうして静かに視線を逸らす。
アン・ヤーとナラ・ルーのしゃくり上げる声がしていても、リワム・リラは必死に耐え続けた。決して涙はこぼすまい。その瞬間諦めたことになるのだから。敵が攻め込んで王の死を叫ぶ中で、自分だけは信じている。味方でいると決めていた。
心を決めていても溢れそうになる涙を、唇を噛み、拳を握りしめることで耐える。顔を覆ってしまいそうになるのを堪えて、ずっと名前を呼び続けた。
(カリス・ルーク様……ウィリアム様……!)
閉じていた心が開く。名前を呼ぶ。
思いを寄せる人と永遠の英雄を。
新たに覆面の反乱者がやって来る。そいつが何を告げるのか知っていたが、リワム・リラ自身が聞かねばそれは真実にはならない。反乱者の唇がつり上がり、勝利を確信する。しかし告げられる時が来るまで、リワム・リラの心は叫んでいた。
何故ならそれが今出来ることだからだ。
信じる。信じている。
信じている。信じる。
――生きて、会いに行く。
会いに来てもらうのではなく、会いに行くことを。
きぃん。
輪が回るような、音。
「!」
誰かに微笑まれて手を取られた気がした。
この手と心で掴んでいたものが、何かと縒り合わされる感覚。
そうして呼応するようにぐにゃりと世界が歪んで目を見張った。