眩い朝の光景 まばゆいあさのこうけい
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「おはようございます」
 アンバーシュの第一声に、珠洲流はすうっと目を細め、これがどういう状況なのかを冷静に判断しようとしたらしかった。何故、東の大神の宮に西神の雷霆王が、どうどうと朝餉をしているのか、理解に苦しむ気持ちはよくわかると、一縷はぽりぽりと漬物を噛んだ。
 そのようにして一縷が平然としているので、これがこちらの仕業だと分かったらしい。聞こえよがしなため息をついた。
「生臭で申し訳ありません」
「食事のことでのため息ではない」
 東神は、生粋の神なので、大気や大地の力を食んで生きることができる。酒と果物以外のもの、人間のように調理をしたり肉や魚を口にするのは生臭だと言う者もいるが、西神はそうでもない。食事は娯楽として楽しんでいる。一縷は東と西の合いの子だが、長らくの習性で、朝餉と夕餉はきちんと取る生活をしていた。
 珠洲流はアンバーシュを見た。
[アンバーシュ。分かっているとは思うが]
[さすがに五歳の女子には手を出しませんよ……]
 それほど信用がないのかと苦笑いしつつ、肩をすくめる。
 一縷は、見た目は十五、六だが、実年齢は五歳だ。生まれてそれだけなのに容姿が成長するのは、力に見合った器が勝手に作られるからだった。同じ年頃になった頃に、再び成長すると思われる。
「十五、六でも十分犯罪のように思われるがな」
 と、一縷はひとりごちた。だが、それを言うなら、一縷の現在の両親も十分に変わっている。その時、「うっ!?」と珠洲流が呻いた。顔を上げると、彼のうしろ首に誰かがぶら下がっている。
「えっ、エマ……!」
[おはよう、スズル。一縷。バーシュ]
「おはよう、エマ」
「おはよう、母上」
 一縷が母と呼ぶ、西の女神フロゥディジェンマは、多様な姿を持つ女神で、基本形は十二歳ほどの少女だ。だが、彼女は父神の力を継いで銀毛の大狼に変身することができ、もう一つの姿として銀髪の妙齢の美女の姿を持っている。今日は、少女の姿の方だった。
[エマ! 後ろからぶら下がるのはやめなさい]
[分かった。前ならいい?]
 珠洲流は頭痛をこらえる顔をして[……人がいないところなら]と苦しげに答えた。一縷とアンバーシュは、顔を背けて笑いをこらえる。まったく、この二人がこうなるとは誰が想像しただろうか。
 フロゥディジェンマがとたとたとやってきた。
[バーシュ、朝ごはん食べてるの。どうして向こうで食べないの]
[一縷と一緒がいいからですよ]
[一緒に朝ごはんを食べたいから、よくここに泊まっているの?]
 本来の姿を取り戻したために、フロゥディジェンマの成長は目覚ましく、特に話し方が変わった。語彙も増え、普通の少女のように話す。しかし中身はまだまだ好奇心の塊で、分からないことはこうして答えに窮する質問でも口にする。
[一緒の時間を過ごしたいということです]と、アンバーシュは成長する姪を愛おしげに見つめて答えた。フロゥディジェンマの目が輝いた。
[よかったね、一縷。寂しくないね]
 表情も増え、にこにこしている。
[エマも、寂しくないの。一縷も、スズルも、バーシュも、みんないるから]
 そうか、と一縷も微笑んだ。
[母上も一緒に朝餉をどうだろうか]
[食べる!]
 元気よく返事をして一縷の横にぴったりと座る。やれやれという顔をしながら、それを見つめる珠洲流の目は優しい。アンバーシュも、眩しげにその光景を見て、言った。
[不思議な家族ですけど、なんだかいいですね。俺も早く家族を作りたいなあ]
[まだ、だめー]
[早すぎる。もう少し辛抱しろ]
 両の親神が同時に告げるのに、一縷は目を丸くし、アンバーシュは吹き出した。[その台詞、最高に家族っぽいです]と言って。


20150905初出

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