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うたたねの合間に見る夢は、一瞬を切り取ったかのように閃いて、次に見た時には薄く乾いた花弁のように朽ちていくものだ。見たことすら覚えていない。花の形も匂いも、それがどんな思いを呼び起こしたのかも。意識の内側に錘をかけたかのように、夢とうつつを行き来していた。風の音、周りの草が揺れる音が、眠りに引かれる身には時々耳障りなほど大きく響いてくる。瞼の裏で、雲から姿を現した太陽の形が分かる。冷えた身体がゆっくりと暖まっていき、また心地よい夢の中へ向かう。
フロゥディジェンマには、ここに来ないよう言っている。人間は上がってこられない。断崖絶壁の一帯で、どこかからやってきた種が芽吹き、天空の庭を作っているこの場所は、アンバーシュの絶好の昼寝場所だった。自由な時間が与えられると、ここに来て寝転がっている。夜に来ることもあり、そんな時、この小さな園は星の海に浮かぶ島のようになるのだった。
ここに誰か呼ぶときが来るのだろうか。そんなことを思う。もう二度と来ないかな。自嘲で顔を歪めようと、見咎める者は誰もいない。
(強くて、綺麗で、揺るぎないものがあるのなら、どうか姿を現して)
あなたに会いたい。名前を知らないあなた。この世にいるかも分からないけれど、もし出会えたならば。
楽園にも満たない小さなその場所は、光と影を繰り返して、アンバーシュを安らぎの微睡みヘ誘う。
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睫毛に触れるものに、目を覚ます。かすかな息が、跳ね返って当たるのだ。腕の中で彼女は存在する。冷たい光を宿す瞳は、閉じられ、眠ると、暖かなひとつの生き物になる。この身体を温めてくれる。
独り寝の安らぎを、アンバーシュは好んでいた。自由になる時間があると、どこかで一人、微睡んでいた。解放されたかった。父神の命で国主に据えられていたけれど、時間の流れを見ているのは時々苦しい。だから、何もかも忘れられる時間がひとときだけでも必要で、一人になると午睡を楽しんだ。
それが、今はこうしていることの方が嬉しい。隣にある恋人の存在は、胸を満たして余り在る。お互いの意識が眠りにあっても、意識のないところで寄り添っている、その安堵。
一緒に昼寝をしようと言えば、いちるは何を言い出すと眉をひそめながら、まあいいかと隣に並んでくれる。多分。きっと。どちらかが目が覚めても、ぐずぐずと横になってくれる。彼女は、そういう安らぎもくれるひとだった。
(強くて、綺麗で、揺るぎないものがあるのなら)
どうか。
どうか、そういうものに、自分がなることができますように。
アンバーシュは胸の中にひっそりとその言葉を宿し、目を閉じる。まだ、しばらく、微睡んでいてもいい時間だ。
20131126初出 リクエスト:お互いのリラックスの方法か一人の時間の過ごし方
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