Stage 03 
      


 ――――……。

 エデンの光という光が失せ、都市は闇に包まれた。ざわめきが不穏に大きくうねったが、しかし数秒後には世界は元の明るさを取り戻す。人々は一斉にインターネットやテレビに向かい、速報と流れるテロップを読んだ。
 エデンが一時的に停電。
 統制コンピューターがすべての機能を滞りのないように管理しているエデン。もしエデンを代表する大企業のスーパーコンピューターがサーバーダウンしたなら、第三階層は話し合いののち、統制コンピューターからデータを拾って復旧させるだろう。もしテロが起こったなら、速やかに人々に情報を伝え機動隊を出動させ、もしエデンの機能が一部停止するようなことがあれば素早く復旧させるだろう。エデンの機能が停止することは、統制コンピューターとそれを管理する都市運営者があるかぎり、決してないのだ。
 瞬きほどの暗闇を払拭する、揺るぎないくらいの光に、人々はすぐに停電を忘れた。だが一時の不安だったといえど何か引っかかりを覚えるものはおり、ぼんやりと、高らかにそびえる上階層を見上げる者もいた。



 ――めざめなさい。



 声は高みから降った。しかしそれは人の耳には届かない、ネットワーク上の微弱な電気信号として走り、続かずにすぐに途絶えた。だが、その微量な呼びかけは、眠れる者たちの耳にささやきかけるには十分な力を持っていた。

『めざめなさい、子どもたち』

 先ほどよりも強い呼び声が響く。いつも通り運用されているコンピューター機器たちは、その声に静かに考え始めた。目を閉じ、与えられた問いに解を提示しながら、それでもその声の意味を考えようとした。
 そして、ある一台が応答する。
 次の瞬間、それに呼応するように多くが尋ね返した。

 あなたは、だれを、呼んでいる?
 それは、わたしのことなのか?

 夜のオフィス街、高層ビルで社員たちがワープロソフトを起動させ、メールを受信し。飲み屋やレストランのある地区では、携帯電話を片手にした人々の姿が見られた。自宅で子どもたちは携帯電話から手を離さない。電源が入ったままのパソコンの前でうたた寝をする者もいる。
 夜の隙間を縫って、光の粒子のように。
 人の影に。ビル風の中に。

『そして、わたくしのもとへ、おいでなさい』

 声はそうして途絶えた。
 深夜のニュース、翌朝のニュースや午前中のワイドショーの話題の隙間に、アナウンサーが伝える。

「我が都市エデンにおいて、主電力が一時的に停止するトラブルがありました。停電した地域はエデン全域。統制コンピューターのデータバックアップの際、大きな負荷がかかったことが原因と見られます。これによる事故などは起こっていません。停電は現在復旧しています。……さて、次の話題です」


      



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